<帰国子女だって、国際ビジネスマンだってネイティブとは同等ではない!>
「私は米国人と同じ能力を身に付けたいのです」「アメリカ人と同じ程度のコミュニケーション力をつけたい」こういった質問が多く寄せられてきます。で、答えは「無理です。」
出だしからこんな書き方をすると、興味をなくしてしまうかもしれませんからもう少し説明すると、「英語を母国語としている人たちと同じ言語力を培うのは、その言語が母国語ではない人には無理です。」ということです。
少し身近な例を出しましょう。私の元ではいま、何人かの帰国子女の方に仕事を手伝ってもらっています。帰国子女といってもレベルはまちまちです。
私たちは、最近テレビのアナウンサーにも帰国子女の人がレポーターとして欧米人に流暢な英語でインタビューをしている姿をかなり見かけるようになりました。
だから、彼女たちはきっとネイティブと同じ英語力があるに違いないと思いがちです。
ところが実際にはそんなことはありません。
帰国子女といっても千差万別ですが、私のところに応募にくる人たちは軒並み自負があって応募してきます。
私が直接会って、これはと思い仕事をお願いできるのはそのうちの20人に一人くらいです。
ビジネスマンの方ならご存知かと思いますが、寺澤芳雄氏という国際的に活躍されていた方がいます。
彼は、野村證券の米国社長を経て世界銀行の機関であるMIGAの長官を勤めた米国生活22年の、日本でも有数のビジネスマンでした。
(日本でも参議院議員、経済企画庁長官を務めていました。)
彼自身のお嬢さんも帰国子女なのですが、彼の著書「英語オンチが国を亡ぼす」(寺澤芳雄 著 新潮OH!文庫)では、次のように書いています。
「帰国子女の英語は本ものか
小さいときから耳から覚えた英語というのは、言い方を変えればまだ成熟していない英語である。日本語で考えてみてもそうだが、小・中学生が日常会話で使う程度のボキャブラリーだけでは成熟した日本語とはいえない。」
手厳しい書き方ですが、私は帰国子女は耳から英語を覚えた英語の達人。
その段階まで到達できれば寺澤芳雄氏が書いているとおり、
「せっかく身に付けた完璧な発音や聞き取る能力や表現力は、帰国後も研磨氏ブラッシュアップしていく」ことで「使える成熟した英語になる」
のだと思います。
世界で通用するビジネスマンである寺澤氏自身が自らの英語力を次のように書いています。「ぼくの場合、アメリカに22年も住んでいたし、MIGAという国際機関の長官を4年間務めていたので、「さぞかし英語には自信があるんでしょう。うらまやしい」という反応をされることが多い。
しかし、英語に関する自信はまったくない。
そんなばかな、と思われるかもしれないが、残念ながらそうなのである。
アメリカ人が4,5人いて、機関銃のような早さの英語でジョークを言い合っている。
みんなワーッと笑うのだが、そのわけがぼくだけ悲しいくらい分からない。おもしろくもなんともない。でも笑わないのは悪いから、少し頬を緩めたりする。そんな時は本当に自己嫌悪に陥る。」
これは、かなりの謙遜だと思いますが、要は帰国子女にしたって国際派ビジネスマンにしたって、教養あるネイティブと同等の英語力を身につけることはほとんど不可能。
だったらはじめから70%程度の能力に標準をあてて、頑張っていけばいいんではないか、ということだと思います。
寺澤氏自身は、どうやって英語を上達させたらいいかということに関しては、次のように書いています。
「英語による英語の授業
ぼくは、中学、高校ではもっと英語を母国語とするイングリッシュ・スピーキングの先生から英語を学べる機会を作るべきだと提案したい。
英語で英語を学ぶ、というのは思ったよりも難しくない。むしろ、今までの「仮定法」とか「過去完了」とかいった日本語としてこなれていない、難解な文法用語から解放される分やさしくなるのだ。
なるべく早く、英語教育を「英語による英語の授業」から始める体制を確立させていきたい。」
「受験システムを変えよ
受験用の死んだ英語を必死になって勉強する塾が流行るだけ」と現在の受験システムに警告し、受験システムの変更を提言しています。
そのなかで最も力説しているのは、和文英訳の廃止。
「和文英訳はやめたほうがいい。和文英訳だと、どうしても先に日本語があって、それを英文に訳すという作業になる。これでは英語で考える訓練ができない。」
日本語を介さず英語で英語のまま理解する、英語で考えることができるようになって初めて使える英語への第1歩が踏み出せるのです。
これが出来て初めて、氏が提言するように
「英語教育の最後の仕上げは、大学の授業で英語を学ぶのではなく、「大学の授業を英語で学ぶ」」というのが可能になってくるのでしょう。
すでに社会人になっているあなたとしては、英語のまま聞き取り、英語のまま理解し、英語のまま考える習慣を身に付けて70%の到達度を目指す。
そしてあとは、英語を使っていく環境を整えることで、風のある日には凧がどんどん上昇気流に乗っかっていくように、英語力は上昇スパイラルにはいるのです。
ちなみに、寺澤氏が自ら課している英語漬けは、「毎朝のジャパンタイムズ」と「週2回の米国人の友人との朝食」だそうです。